配送ルートを最適化するには?作成時の課題と対処法
定着を図る!運送業における新人教育の重要性とは
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【運送業】新人教育の重要性
厚生労働省が2021年および2022年に公表した資料によると、運輸業・郵便業の離職者数や離職率は、下記のとおりでした。
2021年
2020年
2019年
離職者数
361,7004人
421,800人
385,600人
離職率
11.5%
13.3%
12.5%
引用:厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概況」・「令和3年雇用動向調査結果の概況」
2021年の全産業の離職率が13.9%であることを考えれば、運送業(運輸業・郵便業)の離職率が特別に高いわけではないことがわかります。
一方、2021年の入職率は11.5%と、離職率と同じ割合でした。2020年の入職率は14.5%、2019年は14.3%と、いずれも同年の離職率と同等もしくは若干上回る数値です。
離職率と入職率に大きな差がないことは、すなわち「なり手が増えても同じ程度の人が辞めていく」ともいえます。
入職者をある程度獲得できているのであれば、運送業界が労働力を維持・増大させるためには、出ていく人材を減らす施策が必要です。将来は現在の主力ドライバーが定年退職を迎えるため、若年層をうまく取り入れられなければ、深刻な人材不足に陥ります。
多くの若年層に自社へ残ってもらうためには、離職する原因を解消することが重要です。給料や労働時間、体力面などのほか、業界問わず新人がストレスを感じることのひとつが、教育体制です。
とくにドライバーは先輩や同僚から教わる機会が少ない傾向にあり、誰かに相談できないまま悩みや疑問を長期間抱えがちです。新人教育で仕事の進め方を教えつつ、先輩や上司、同僚など気軽に相談できる関係性の構築をサポートできれば、働きやすい環境づくりにつながります。
将来の人材不足を解消するためにも、早い段階から新人教育に力を入れ、若いドライバーの流出を防ぐことが重要です。
運送業における新人教育の方法
ドライバー向けの新人教育は、複数の手法があります。効率的にドライバーに必要な知識を提供するために、教育プログラムを見直してみましょう。
運送業におすすめの新人教育の方法として、次の5つがあげられます。
全日本トラック協会に資料に基づいて研修する
ドライバーの安全教育に活用したいのが、全日本トラック協会の『トラックドライバーとしての心構え』です。遵守すべき事項や体調面への配慮のポイント、飲酒運転の危険性などが記載されています。
トラックドライバーの仕事の重要性を自覚できるとともに、事故など具体的なデータを用いた解説で、安全意識の醸成につながります。接遇マナーのポイントも解説されているため、配送先からのクレームリスクの軽減にも役立ちます。
運送業界およびトラックの基礎的な情報も網羅されており、高校や大学を卒業して間もない若年層への教育にも適しています。
参考:「トラックドライバーとしての心構え」(公益社団法人 全日本トラック協会)
国土交通省の教育マニュアルを用いて研修する
国土交通省が作成した教育マニュアルに沿った研修もおすすめです。安全教育マニュアルが業態別に作成されており、2023年3月現在、同年1月に最新版が公開されています。
教育マニュアルの特徴は、各項目で「指導のねらい」がまとめられていることです。トラック運転手としての心構えや交通事故の推移など、日本トラック協会の資料と重複する部分もあり、国土交通省版のみでも幅広い研修が行えます。
国土交通省が作成したこともあり、法令で義務付けられている行為を守らなかった場合の処分について、刑事・行政の両面で詳しく解説されています。加害者・被害者それぞれの立場からの心理状態など、安全意識の醸成に役立つ項目のほか、積載量など実践的な情報も豊富です。
マニュアルには『概要編』と『本編』があります。日常的に活用する際、指導や研修に活用する際に、それぞれ使い分けましょう。
参考:「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル《第1編 概要編》」(国土交通省)
参考:「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル《第2編 本編:一般的な指導及び監督指針の解説》」(国土交通省)
自社独自の安全教育研修を実施する
自社独自の安全教育研修を実施する場合、下記の法定12項目を押さえた内容にする必要があります。
12項目とは、国土交通省が定めた「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」を指します。
- トラックを運転する場合の心構え
- トラックの運行の安全を確保するために遵守すべき基本事項
- トラックの構造上の特性
- 貨物の正しい積載方法
- 過積載の危険性
- 危険物を運搬する場合に留意すべき事項
- 適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況
- 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
- 運転者の運転適性に応じた安全運転
- 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因とこれらへの対処方法
- 健康管理の重要性
- 安全性の向上を図るための装備を備えるトラックの適切な運転方法
引用:国土交通省「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」
国土交通省が公開している指針には、教育時に配慮すべきポイントなども掲載されています。自社で研修プログラムを作成するときは、12項目とともに参考にしましょう。
OJTを実施する
何事も、実践に勝る教育はありません。トラックドライバーの業務も、OJT(On-the-Job Training)の実施が重要です。
OJTとは、現場での実践を通して、業務知識や能力を身につける教育手法です。現場におけるフローや手順など、マニュアルを読み込むだけでは理解しにくい部分を体験しながら学べます。
一方で、新人教育では研修を受ける側のみが優先されがちです。しかし新人の入職・離職が多いと、「教育してもすぐに辞めてしまう」と指導する側のモチベーションも低くなるおそれがあります。質の良い研修を実現するためには、新人と同じく指導者側へのケアも必要です。
OJTで実践的に教育することで、新人も指導者も手ごたえを感じやすくなります。個々と向き合うことで、どのような場面で新人がつまずきやすいかを分析し、次回の新人教育に生かせるメリットもあります。
Off-JTを行う
外部セミナーへの参加など、業務から離れて行う研修をOff-JT(Off-the-Job Training)と呼びます。
ドライバー向けのOff-JTは、たとえば道路交通法やハラスメントなど法律をより詳しく学ぶプログラムがあげられます。マナーやコミュニケーションといった、業種に縛られない一般的なスキルに関する研修も、外部セミナーの受講がおすすめです。
外部の専門会社にセミナーを依頼すると、自社では気付けなかった課題の洗い出しもできます。自社独自の研修のみでは対応しきれない専門分野をカバーしてもらうことで、新人教育の質を向上させられます。
【運送業】新人教育は精神面の教育も必要不可欠
近年は、トラックドライバーの精神面の健全性も注目されています。新人教育において、法律やルールの周知はもちろん、モチベーションの向上も求められています。
ドライバー本人が安全を意識して運転できるよう、精神面の教育も取り入れましょう。具体的な対策として、次の2つがあげられます。
ドライバーとしての使命を伝える
安全教育を仕事に生かしてもらうためには、ドライバー自身の意識改革が必要です。ドライバー本人が自発的に安全運転を心掛けたくなるような、健全なモチベーションを与えることが事故防止につながります。
各研修マニュアルでも触れられている、ドライバーの使命について丁寧に解説しましょう。配達件数が多い場合は、「回りきらないと」「時間内に届けないと」とドライバーが焦りやすいシーンは少なくありません。焦る気持ちは、事故リスクを高めます。
業務を全うすることと同じく、安全運転を心掛けることもドライバーの重要な使命です。また、ドライバーの意識改革を行うためには、一人あたりの配達件数が多い、負担が大きいなど、業界課題への根本的な対策も求められます。
過去の事故事例を伝える
大手航空会社や鉄道会社では、過去の重大な事故に関する資料を残し、安全教育に役立てています。運送業界においても、過去の事故事例など具体的にイメージしやすい資料を活用した研修が効果的です。
過去の事故事例を、「原因」「被害内容」「その後の対応」など、研修受講者がイメージできるように可能な限り詳しく解説します。実際に起きた事故の事例を知ることで、より安全運転への意識が高まります。
まとめ
運送業は、他の産業と比べても特別離職者が多いわけではありません。比較する業種によっては、運送業のほうが多くの入職者を確保できているともいえます。
とはいえ、問題となっているのが、離職率と入職率が同等であることです。入ってくる人材がいる一方で、同程度の人数が離職しています。
人材の流出を防ぎ、将来の労働力を確保するためには、新人教育による定着率の上昇が欠かせません。一般的なマナーはもちろん、ドライバーとして活躍するための精神的な教育にも注力することが重要です。